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手つかずの映像・展示研究の空白地帯!

「展示映像」
総合アーカイブプロジェクト Comprehensive archive project of exhibition video

2017年:アスタナ国際博覧会 UAE館
2017年:アスタナ国際博覧会 スロバキア館
2017年:アスタナ国際博覧会 イスラエル館
2017年:アスタナ国際博覧会 サウジアラビア館
2017年:アスタナ国際博覧会 トルコ館

国際博覧会や博物館等で上映された映像作品を後世に残し、
調査・収集・保存・再現公開の情報拠点:展示映像総合アーカイブセンターの設立にあたり

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展示映像の危機

「展示映像」とは、展示会等のイベントや博物館、企業のショールーム等のために制作・上映された映像のコンテンツやシステムの総称です。

1970年に開催されたわが国初の国際博覧会である日本万国博覧会の日本館では、8面マルチ映像『日本と日本人(原題:富士山)』が上映されました。そのフィルムは所在不明でしたが、九州大学芸術工学研究院は2013年に43年ぶりに東京都内でフィルム原版を発見しました。博覧会等のために制作されてきた多くの「展示映像」は総合的・組織的に保存されることがなく、破棄もしくは散逸の現状にあります。以下に写真で例示する展示映像は、どれも現時点では再現することができません。貴重な映像遺産は消失の危機に直面しています。

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本プロジェクトの目的

国際博覧会等で制作・上映されるいわゆる「展示映像」は、システムや表現の特殊性ゆえにほとんど残されません。同時代の最高のスタッフや先端技術を使ったこの映像は映像表現、撮影や上映技術、音響デザイン、建築、空間デザインなど多方面にわたる側面をもっています。これらの映像の廃棄・散逸を防ぎ、後年の研究資料としてあるいは映画に比肩する映像遺産として残すために、コンテンツ(フィルム&デジタル、音声)、制御技術、特殊効果、空間デザイン、これらの関連資料などを総合的にアーカイブすることを目的とします。保存した作品は何らかの方法で再現可能な活用を目指します。

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保存されない映像

映画は国立映画アーカイブ等で永年にわたり保存されていますが、展示映像は映像原版、音声原版などの所在は、ほとんどわかっていません。アーカイブの責任や保存の現状はあいまいなままなのです。関連機材もすでに多くが廃棄されており歴史資料自体が消滅しつつあります。

1985年 つくば科学万博 IBM館 『科学万博をささえるフィルム映像』 (社)日本映画機械工業会,1985年,p5
1975年 沖縄海洋博 住友館 『沖縄海洋博覧会公式記録』1975年
1970年 日本万国博 サントリー館 『写真集・日本万国博』朝日新聞社, 昭和45年
1970年 日本万博 富士グループ館 『写真集・日本万国博』朝日新聞社, 昭和45年
1970年 日本万博 日本館8面マルチ映像の撮影機 (株)ナックイメージテクノロジー所蔵写真
1970年 日本万博 『日本と日本人』 『日本万国博覧会日本館運営報告書』日本貿易振興会, 昭和45年

映像による展示の原点は1900年パリ万国博覧会に見ることができます。フランスのリュミエール兄弟によって映画が発明されてわずか5年後のことです。会場内で公開された展示映像は保存されておらず、再現することはできません。どんな展示があったのか概説してみましょう。

脇山真治『イメージの時代の予感~1900年パリ万国博覧会~』 出典:「川上音二郎と1900年パリ万国博覧会展図録」福岡市博物館、2000年

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同時代最高のスタッフ

展示映像は前例を拠り所としない挑戦的な映像です。空間デザイナー、システムプランナーを含めその時々にもっとも活躍しているクリエーターが参集して制作に取組みました。

リンク(2015.05.01)
リンク(2015.05.01)
リンク(2015.05.01)
リンク(2015.05.01)
リンク(2015.05.01)

写真左上から市川崑、恩地日出夫、山本直純、黛敏郎、谷川俊太郎=展示映像のスタッフとしても活躍

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表現と技術と空間が 総合する貴重な映像遺産

展示映像は空間デザイン、造形、スクリーンデザイン、撮影・上映システム、音響効果、特殊照明、ライブ構成、観客参加等が組み合わされた、総合演出が特徴です。

事例をもっと見る

1970年 日本万博 日本館 『日本万国博覧会日本館運営報告書』 日本貿易振興会, 昭和45年
1970年 日本万博 日本館の撮影機材 (株)ナックイメージテクノロジー所蔵写真
1985年 科学万博 みどり館 脇山真治撮影
1982年 世界まつり博 テーマ館映像ドーム 脇山真治撮影

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06

展示映像のアーカイブ活動が進行中です

従前からの九州大学の活動に対して、フィルムセンターや映像制作、展示デザイン、映像システム開発等の企業、自治体や関連団体等から過去の「展示映像」に関する情報が寄せられています。この活動は展示映像に関連する関係者の協力なくして進めることはできません。その成果としてフィルムの所在が明らかになったり、作品を複製保存用としてデータの寄贈を受けるといった成果を得ています。すでに複数の作品はデジタル化され再現可能な状態で保存しています。また持続的なプロジェクトとして進めるために展示映像の保存指針の策定を検討しています。

フィルム保存状況の調査
1970年 日本万博 電力館 『写真集・日本万国博』朝日新聞社、
昭和45年
1975年 沖縄海洋博 松下館 『沖縄海洋博覧会公式記録』
1985年 つくば科学万博 歴史館 『Image and Spectacles Victor Creates』
ビクター音響株式会社
, 1985年
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九州大学から継続して保存中の展示映像の状況

現在は一社)展示映像総合アーカイブセンターおよび九州大学芸術工学部にて保存

  1. 『日本と日本人』日本万国博覧会(1970)日本館上映8面マルチ映像作品。2013年6月東京都内にてフィルム原版を発見。いまだ音声原版は見つからず。8面合成版。
  2. 『鉄と稲』つくば科学万博(1985)歴史館上映作品。スライド原版ならびに上映プリントの大半、大型映像70mm8pの縮小版35mm4p、上映記録映像、上映会場記録写真等。
  3. 『マリンフラワーズ』沖縄海洋博覧会(1975)3面マルチ映像
  4. 『未来への挑戦~渋沢栄一物語~』さいたま博覧会(1988)渋沢栄一館3面マルチ映像
  5. 『新しい北海道』北海道開拓記念館(1992)6面マルチ映像
  6. 『時の回廊への誘い』山口きらら博覧会(2001)山口館3面マルチ映像
  7. 『左門と一緒に』千歳サケのふるさと館3面マルチ映像
  8. 『JL002東京~サンフランシスコ』科学技術館(1970年代) 9面サークルビジョン
  9. 『日本・人と自然』スポーケン国際博(1974年)日本政府館 3面マルチ映像
  10. 『MANDARA』(1998年)3面マルチ映像

その他多数の展示映像映像作品

  • 合成版保存(DVD等): 『波頭をこえて』3面マルチ映像、海上自衛隊佐世保史料館/『TOKIを探せ~新潟ふれあいのたび~』8面マルチ映像、新潟ふるさと村/『さいふまいり』3面マルチ映像、大宰府天満宮展示館/『近畿の森』5面マルチ映像、大阪花の万博いちょう館/『Canadian Rockies~Dream Festival~』3面マルチ映像、松下電器産業創立70年記念/『流~STREAM~』3面マルチ映像、ルイジアナ国際河川博覧会(1882)日本館/その他
  • スプリットスクリーン作品(DVD等): 『Multiple Man』カナダ国立映画庁(1969)/『View From The People Wall』New York World’s Fair1965/『In the Labyrinth』カナダ国立映画庁(1967)/ 『House of Science』C&R.Eames(1962)/『Goods』C&R.Eames(1981)その他
マリンフラワーズ
つくば科学万博・歴史館 『鉄と稲』
北海道開拓記念館『新しい北海道』
未来への挑戦~渋沢栄一物語~
時の回廊への誘い
Multiple Man
View From The People Wall
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保存対象の
展示映像

展示映像の明確な定義はありません。映画やテレビ番組といった従来型でかつ標準的仕様をもったメディアやコンテンツとは異なり、世界標準に準拠しない映像で広義の「展示」のために制作されたもの全般をさします。本アーカイブは、次のような映像を対象とします。

  1. 博覧会、見本市、展示会、スポーツ、コンベンション等のイベントで制作上映された映像
  2. テーマパーク等のエンターテインメント施設のための映像
  3. ショールーム、企業ミュージアム、ホテル等の商業施設で使われる映像
  4. 博物館、科学館、水族館、動植物園、美術館等の文化施設で上映される特殊仕様(解説映像のように通常のモニターで放映されるものを除く)の映像
  5. スタジアム、競輪・競馬場等の映像
  6. 規定のスクリーンやモニターでの上映に準拠しない仕様のアート作品
  7. プラネタリウム等のドーム・大型の映像
  8. コンサート、ミュージカル、演劇等で制作・上映された映像
  9. テレビ番組のスタジオセットとして組み込まれた映像
  10. その他展示映像と考えられるもの全般。展示映像か否かの曖昧な作品は排除することなく「網羅的収集」の原則からその対象としてあつかい、具体的なアーカイブの方法や形式等については個別に検討し判断します。
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展示映像の記録と
保存の方法

展示映像は国際標準仕様がないため作品ごとに異なっています。それは映像のフォーマットに限らず、上映時のスクリーンや音響システム、特殊効果など当該作品を成立させるすべての要素にわたります。この映像は後年の再現を前提にしていないために、上映空間も特殊である場合が多いのです。したがって記録保存には上映時の空間デザインがわかる記録(動画・静止画)、コンテンツ自体(フィルム、デジタル映像データ、音声テープ、デジタル音声データ等)、撮影機材もしくは制作機器に関する情報、上映時の機材、特殊機器、演出プラン(企画書等)など・・・・作品の全貌がわかる視覚資料および関連資料を保存します。

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プロジェクトからセンターへ

「展示映像総合アーカイブプロジェクトは2004年にスタートしたマルチ映像保存プロジェクトを引き継いで2009年から九州大学芸術工学研究院(旧脇山真治研究室)でスタートしています。2012年には文部科学省の科学研究費補助金を得ておりその後2019年まで継続的に研究費を獲得しました。その間に収集した資料は別記のとおりです。保存が困難とされる展示映像の分野では異色の映像資料となっています。展示映像はようやく社会的に認知されはじめていますが、より強いアーカイブ活動とその成果の社会還元をめざして、2021年4月からは「一般社団法人展示映像総合アーカイブセンター」として公益的かつ広範囲に活動を推進していきます。

展示映像総合アーカイブセンターウェブサイトを見る

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展示映像総合アーカイブセンターの概要と全体像

本プロジェクトはさらに積極的な活動拠点とすべく、国内初の(※)一般社団法人展示映像総合アーカイブセンターを創設しました。このアーカイブセンターは関連資料の所在調査、収集と保存、デジタル化と、資料の閲覧や法令が許容する範囲での限定的な公開等を中心に活動する、プロジェクトの実質的な推進組織です。活動の多くは民間企業、研究機関、関連する諸団体の協力により可能となるものです。展示映像の散逸を防ぎ、将来に向けた保存と貴重な映像資料の社会還元をめざします。

(※フランスにFuturoscopeという映像テーマパークが参考施設として例外的に存在しますが、展示映像のアーカイブは国際的にもほとんど例がありません)

展示映像総合アーカイブセンターの全体像
※記載の企業や団体等はすでに資料の収集や保存活動に協力いただいています。
お問い合わせ

九州大学名誉教授・博士(芸術工学)

脇山真治

WAKIYAMA Shinji

マルチ映像研究スタジオ わきすた
〒810-0041 福岡市中央区大名1丁目15-31
ネオハイツ大名Ⅱ305号

九州大学 大学院芸術工学研究院 准教授・博士(芸術工学)

石井達郎

ISHII Tatsuro

九州大学 大学院芸術工学研究院
〒815-8540 福岡市南区塩原4-9-1