マルチ映像Multiple Image
マルチ映像は複数の映像を同時に使う
システムと表現の総称です
私たちが日常的にみる映像は、テレビや映画などのように画面が一つです。国際博覧会や見本市などのイベントや、テーマパーク、博物館などの文化・商業施設ではいくつもの映像を同時に使う特殊な映像が上映されています。このような複数の映像を同時に使ってメッセージを発信するとき、そのシステムや表現を総称して「マルチ映像」といいます。世界の標準仕様のある映画やテレビと異なり、スクリーンの形や配置、モニターの構成、音のチャンネル数やスピーカ配置など規定はなく、自由なデザインが特徴の映像です。 1画面の映画やテレビが、ひとつの時間軸にそって論理的にメッセージを伝えることにすぐれたメディアであれば、マルチ映像はメッセージを短時間に、総合的に、包括的に、感覚的に伝えることが得意な映像です。
マルチ映像は
人間の世界認識の映像モデルです
私たちの身のまわりで、複数の情報を同時に見比べるという状況は日常的に存在します。市場で山積みのリンゴの中から一つを選ぶとき、色、大きさ、形状、傷の有無、産地、銘柄、価格などマルチ情報が短時間で処理されます。ファミリーレストランでの食事は写真付きメニューが決め手でしょう。いくつもの候補を見比べます。ボリューム、価格、好き嫌い、盛り付け、スープやサラダのセット、季節限定表示。あるいは友人が何を選ぶかも気にするでしょう。情報を見比べるという状況は特別なことではありません。マルチ映像は私たちの世界認識の映像モデルといえるでしょう。
マルチ映像の原点・・・・
祭壇画、屏風
写真も映画も19世紀の発明です。テレビは20世紀になって登場しました。マルチ映像もこれらと歩調をあわせて展開していくのですが、その原点は中世にさかのぼります。
教会の祭壇画にはキリストの生涯を複数の絵で表現したものがあります。三連祭壇画triptychは3つの部分に分けられた祭壇画でオランダの画家ハンス・メムリンク Hans Memlimgが描いた『最後の審判』もそのひとつです。さらに多数の絵で一つのテーマを構成した多翼祭壇画Polyptychは、複雑なエピソードを同時に展開する難解な絵画です。オランダのヤン・ファン・エイクJan van Eickによる『ヘントの多翼祭壇画』はそのひとつです。
日本にもマルチ映像の原点があります。屏風絵です。四季を描いた狩野永徳の『花鳥図押絵貼屏風』中林竹洞『山水・花鳥図押絵貼屏風』はいずれも六曲一双ですが、同時に見ることのできない6つの視点を同居させた作品です。洋の東西を問わず、映像が発明される以前から、いわゆる「マルチ表現」は存在していました。この表現メディアが映像となって今日のマルチ映像へと進化していきます。
マルチ映像のいま/国際博覧会、博物館など
マルチ映像は博覧会、展示会等のイベント、博物館などの文化施設、ターミナルなどの商業施設で見ることができます。複数の情報を短時間に、かつ効率的に伝える映像として活用されています。
国際博覧会ではマルチ映像がよくつかわれます。たとえば「日本」という国を紹介するには歴史、文化、くらし、祭り、食、観光、自然など多様な側面を見せる必要があります。来場者は映画のように2時間も滞留する余裕はありません。そこで短時間で日本の多彩なな様相を複数の映像で一度に見せることによって「日本の概況」を表現することができます。マルチ映像のメッセージの総合性、包括性とはまさにこのことをいいます。
スプリット・スクリーン
~単画面の中のマルチ映像~
マルチ映像は複数の映像を使います。テレビモニターやスクリーンをいくつもくみあわせたものを「集合映像」=集合型マルチ映像といい、一つの画面の中を任意に分割して複数の映像をはめ込むこともありますがこれを「分割映像」=分割型マルチ映像といいます。
分割映像は映画ではじまった表現技術で「スプリット・スクリーンSplit
Screen」といいます。今日では映画をはじめ、テレビ番組やテレビCMでも使われており、身近なマルチ映像として目にすることができます。
(掲載のスクリーンショットは論文:脇山真治『映画におけるスプリット・スクリーンの系譜~マルチ映像史の傍流として~』芸術工学会誌64号、2014年からの転載、及びWEB公開済みのTVCM等から抜粋したものです)
マルチな情報世界
雑誌はマルチ情報の宝庫です。グルメ雑誌には店舗、店長、メニュー、数点の看板料理がページいっぱいに配置されています。ファッション雑誌も小物、コーディネイト、着こなしなどがマルチ情報として掲載され、旅行雑誌もまた宿泊や訪問先の魅力が複数の写真で表現されています。新聞では時間差のある事象を比較するときに複数の写真を使います。たとえば災害の前後や季節による変化などに使われています。いわゆるマルチ映像の静止画版である「組写真」は今日的情報処理の定番となっています。
東京都立大学 オープンユニバーシティ2021年春季講座にて
マルチ映像をテーマとしたオンライン授業を行いました。
コミュニケーションのメディアのひとつに映像があります。映画やテレビはその代表例です。
映像は博覧会やテーマパーク、プレゼンテーション等には不可⽋な要素で、この応⽤にはゲーム、VR、プロジェクションマッピング等があります。
東京都⽴⼤学オープンユニバーシティでは、コミュニケーションの観点から映像の拡張表現のひとつに着目しこの講座を計画しました。
今春に開講したオンラインスペシャル講座ですが、本講座は「マルチ映像」の研究では第一人者である九州⼤学名誉教授の脇山真治先生が、福岡の研究スタジオからライブで講義します。オンラインならではの講座です。