中国の国家の威信をかけた国際博覧会。テーマは「より良い都市、より良い生活」会場は相変わらず「映像」が満載という印象がある。映像のスケール感という観点からは、前例がないといっても過言ではないだろう。
大型映像は一時期、一世を風靡したIMAXが、スクリーンの幅を30mあるいは35mというところで「世界最大」を謳っていたが、今回の中国国家館では130mという桁違いの大スクリーンが登場した。
これまでは大型の映画フィルムの技術的限界といわれた70mm15pをいかに拡大投影するかが、大スクリーンへの挑戦であった。そのために映写機のランプハウスに5kw、7kwなどの大出力のものを使用し大型化に対応してきた。つまり技術的な関心事は、解像度を維持しつつ、高輝度・高コントラストを探求しかつ30万倍前後の拡大を目指すことにあった。当然のことながら拡大率の限界が大画面の限界ということになる。
映像がデジタル化された後も同様である。映写機の性能にもよるがデジタルシネマの仕様を勘案するとスクリーンサイズは20~25mが限度だろう。
ではなぜ、今回の博覧会では100mを超える大映像が実現したのか。それはデジタル映像を前提にしてエッヂブレンディングによる投影技術が格段に進歩したことに因るところが大きい。エッヂブレンディングEdge Blendingとは、複数の映写機を投影するとき画面の隣接部を少し重ねておき、その重複領域を輝度補正によって境目を目立たなくする技術である。縦方向、横方向、あるいは複雑な形状をした重複領域にも対応でき、理論的には無限台数の映写機の投影を連続させて、目地のない大画面を作ることができる。1台あたりの拡大率はスペックの許容範囲であるため、連続してつくられる大画面はその解像度を維持したまま拡張される。
中国国家館では、北宋時代の国宝級巻絵といわれる『清明上河図』を拡大映写した。映像は高さ6.5m、長さは130mにおよぶ。劇場仕様の映写機が12台使われ、エッヂブレンディングを施すことによって、未曾有の高精細大画面が実現したのである。
本博覧会でもマルチ映像は、博覧会映像の模範解答とでもいえるように使われている。1プロジェクター1スクリーン対応の基本的な形式はいうまでもなく、スプリットスクリーンも多い。映像のデジタル化によってマルチ映像の可能性が拡張したとすれば、それは先のエッヂブレンディングによってもたらされている。大画面を任意の形状に分割することが容易にできるようになり、さらに「分割」という発想ではなく、むしろ複数の映像を「貼り付ける」と表現したほうが正しいだろう。フィルムの時代には光学処理によって可能だったがマスキングや焼付けなどかなり厄介な作業だった。フレームを動かすとなるとコマ単位の指定が必要となり、職人的な技が求められた。
大画面に複数の映像を貼り付けてマルチ映像を実現する。これをマルチペーストイメージMultiple Paste Imageとよぼう。デジタル映像でかつエッヂブレンディングによりつくられた任意の形状の大画面に対して、映像の貼り付けの自由度が格段に上がった。
例えば上海国際博覧会会場の「世博会博物館」の万博の歴史シアターではシアター内をとり巻くひと繋がりのスクリーンに、博覧会の歴史的なシーン、展示物、シンボルなどが挿入される。5分ほどの万博グラフィティーである。
スプリットスクリーンは、マルチ映像に「フレーム数と形状の自由度」をあたえた。しかし基本的にはテレビや映画のスクリーン内で処理される。この歴史シアターのスクリーンは最新・最先端の上海国際博覧会が、いうまでもなく過去の博覧会の歴史に根ざし、不断の技術革新と未来志向が現在に続き、それがまた博覧会起源への畏敬と郷愁と先人の多大な貢献へと帰結する。そんな思想と技術の連鎖を、あたかもひと筆書きのような帯状スクリーンで表現しているかのようである。そうしてこの不定形で連続したスクリーンへの、切れ目のない映像投影を実現したのがエッヂブレンディングである。この博覧会はエッヂブレンディングを基本技術にして、大画面化(特に水平方向)、マルチペースト、スクリーン形状の多様化など、展示映像の進化が感じられる。